ナトリウムの働きと1日の摂取量

ナトリウムは成人の体内に約100g含まれている元素で、主に細胞の外側に存在し、細胞内外のミネラルのバランスを保つためには不可欠の元素です。食塩(塩化ナトリウム)、重炭酸塩、リン酸塩として、約50%は細胞外液中に、40%は骨格に存在し、細胞内液中にはわずかに含まれるだけです。

ナトリウムはナトリウムイオンと塩素イオンが結合した食塩の形で摂取されることが多く、小腸で吸収された後、大部分が腎臓から尿中へ排泄されます。体内のナトリウム量は腎臓での再吸収量の調節によって維持されています。

 ナトリウムはカリウムとともに体内の水分バランスや細胞外液の浸透圧を維持しているほか、酸・塩基平衡、筋肉の収縮、神経の情報伝達、栄養素の吸収・輸送などにも関与しています。また、水分を保持しながら細胞外液量や循環血液の量を維持し、血圧を調節しています。ナトリウムを過剰にとると、この液量が増大するため血圧が上がったり、むくみを生じたりします。そのほかに、胆汁、膵液、腸液などの材料でもあります。

日本人の食事摂取基準(2020年版)では、ナトリウムの排泄量から換算された18歳以上の男女共通1日推定平均必要量を、600㎎(食塩相当量1.5g)と見積もっています(食塩相当量はナトリウムに2.54を乗じて算出します。つまり、食塩に換算すると0.6g×2.54=1.5gということになります)。

 しかしながら、日本人の通常の食生活を考慮すると、1日に1.5gの食塩量というのは、現実的な数値ではありません。そこで、生活習慣病の一次予防を目的として日本人が当面の目標とすべき食塩の摂取量は、日本の食文化、現状の摂取量を考慮して、18歳以上女性では1日6.5g未満、男性では7.5g未満とされています。

ナトリウムは通常の食生活であれば欠乏することはありません。しかし、多量の発汗、激しい下痢の場合には欠乏し、疲労感、血液濃縮、食欲不振を起こします。近年の地球温暖化の影響による熱中症が問題になっていますが、熱中症対策としては、水分だけでなく適度な塩分の摂取は必要です。

現在の日本人の食生活では、摂取不足よりもむしろナトリウムの過剰摂取による高血圧やがんを主とする生活習慣病が問題となっています。日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン(JSH2014)では、食塩摂取量として1日6g未満が推奨されています。また、腎臓に障害がある場合も、塩分の6g未満の塩分制限が必要です。しかし健康に特に問題のない高齢者の場合は、無理な減塩は食欲低下や脱水症状を起こすことがありますので、極端な塩分制限には注意が必要です。

 令和元年国民健康・栄養調査における食塩の1日の摂取量は平均すると9.7gでした。食品群別摂取量を見ると、6.5g(67.0%)は調味料から摂取されており、内訳は、しょうゆ1.6g、みそ1.2g、塩1.2g、その他の調味料2.3gです3)。

ナトリウムは、塩、しょうゆ、みそなどの食塩(塩化ナトリウム)を含む調味料の他、ハム、ウインナー、練り製品、即席めんなどの加工食品や野菜の漬け物などにも多く含まれています。また、うま味調味料などの食品添加物の多くには、グルタミン酸ナトリウムなどのナトリウム塩の形でナトリウムが含まれています。汁物にも食塩は多く含まれるので、具だくさんのみそ汁にしたり、ラーメンやうどんなどを食べるときは、汁を半分残すようにしたりしましょう。