「以心伝心」を信じすぎないこと。

「以心伝心」を信じすぎないこと。 意思の疎通を大切にする
 
 
「以心伝心」という考えは、長らく美徳として捉えられてきた。

「心と心が通じ合っていれば、 ムダな言葉など必要ない」— そういう世界観が、伝統的にはよしとされてきたのだ。

しかし現実世界では、そんな理想だけではうまく回らない場合が多い。

心が通じ合っているというのは単なる一方的な思い込みで、実は、相手はぜんぜん違うことを考えていた— そんな状況はしょっちゅう起きる。

日本語での会話は、欧米のコミュニケーションに比べてハイコンテクストだといわれる。 お互いに前提条件や暗黙知を多く有しているので、皆まで言わなくともわかるということ。

逆に、欧米は相対的にローコンテクストな文化なので、前提条件や重要な内容を省略することなく、できるだけ具体的にものごとを伝えようとする。

「ハイコンテクスト」だから、「以心伝心」という考え方が生まれる。「ここは言わなくてもわかっているよね」「伝わるよね」ということだ。

だから、できるだけ少ないコミュニケーションで意思疎通を済ませようとし、それで十分だと思ってしまう。場合によっては、「皆まで言わないほうがスマートでカッコいい」という考え方すら幅を利かせてしまう。

しかし、仕事における失敗やミスの多くは、「コミュニケーション不足」から発生する。 流通する情報の総量が少なかった昔の社会においては、多少は言葉足らずでも良かったのかもしれない。

しかし、これほどに情報が増え、不確定要素が多い世の中になると、「相手も自分と同じことを思っているはずだ」という考えは通用しなくなる。

その思い込みが仇となり、意思疎通の不足を原因とする、仕事における事故や失敗が発生してしまうのである。

前提条件やあいまいなイメージだけに頼ることなく、きちんと「言語」を介してコミュ ニケーションを取ることはとても重要だ。しかし、実際には多くの人がこれを意識できていないように見える。

自分の考えをできるだけ「正確に」相手に伝えようとする姿勢がないと、なかなか本当には伝わっていないもの。

また、たとえ考えている内容は近かったという幸運な場合においても、優先順位が違うことが多い。

優先順位の感覚のズレは、仕事のスピードに大きな悪影響をおよぼす。仕事を取り巻く状況は刻々と変わるものだし、そのため、少し前の優先順位と現在の優先順位は変わっていることもある。

しかし、メンバー間で正しくコミュニケーションが取れていないと、正確な状況が共有できなくなるのだ。

 

コミュニケーションの 「頻度」 について
人は、コミュニケーションの頻度によって他者への好感度が変わる。疎遠になればなるほど、相手のことがわからなくなり、無用な疑いも増えてくる。

だから適切なタイミングで、 常に情報を共有しておくことが大切。連絡やコミュニケーションは、「少し多すぎるかな」 と思うくらいがちょうどいいのだ。

一方で、「コミュニケーションが多すぎるとさすがにイヤがられないだろうか?」と思っ てしまうかもしれない。相手が、「以心伝心」的な考えが好きそうな場合はなおさらだ。

その場合のコツは2つある。

1つ目は、「個々の内容は短く、簡潔にする」ということ。 長くダラダラとしたコミュニケーションは、それが会話であっても文章であっても相手に負担をかける。頻度を上げる代わりに、1回のコミュニケーションを簡潔にするように心がけよう。

2つ目は、「相手からの返事の負担を減らす」ということ。反応を要求するのでなく、「見ておいてもらえればOK」など、やり方を工夫する。そうすれば、相手に過度な負担をかけることもない。

 

言語化」 の力を磨くことは非常に大切
言葉は、人間活動の根幹だ。人類の進化も、言語とともにあった。

だからこそ、自分の考えがしっかりと相手に伝わるよう、言語能力を磨くことはとても大切。

英語などの外国語の学習を続ける大人はいても、母語である日本語については、学校で国語を習った以降に自分できちんと勉強する人は少ない。

しかし言語の力は、意識していないとなかなか向上しないものだ。何十年も日本語を読み書きしてきたはずなのに、さっ り人に伝わらない文章しか書けない大人は多い。

「以心伝心」に頼らず、意識してコミュニケーションの量を増やし、伝える内容も正確になるように努める。普段から、責任のある、確実な意思疎通を実践できるようにしたいものだ。

 

 

この記事は、アースメディア代表 松本 淳 著 『リクルートに会社を売った男が教える仕事で伸びる50のルール』(フォレスト出版)からの一部抜粋です。