農業を仕事にする =「就農」。

就農を知るステップ
 農業には、種を蒔き、作物を育て、収穫することはもちろんのこと、加工品の製造や販売・マーケティング、地域との共同作業、経営戦略の策定など、様々な仕事があります。

 仕事として農業を選ぶ最初のステップは、仕事としての農業を正しく知ることです。「就農」を正しく理解して、自分が目指す「就農」スタイルを見つけてください。


農業ってどんな仕事?
 農作物を収穫するまでには、長い時間がかかります。種撒き、肥料やり、間引きなど、数ヶ月から一年かけて様々な作業を積み重ね、ようやく収穫を迎えることができます。時には、思わぬ天候不順や自然災害、病害虫被害などで、思ったような収穫があげられないことも。だからこそ、苦労して育てあげた農作物が実りを迎えて、市場で高く評価された時の喜びはひとしおです。 

 

農業を仕事にする3つの方法
「就農」をする際、大きく3つの選択肢があります。  
(1)新たに経営を始める
(2)雇用されて農業で働く
(3)親や親戚の農業を継ぐ
自分の将来像を見据えつつ、選択していくことが大切です。

 

新たに経営を始める

 農業経営体を起業し、独立した経営者として農業を始める就農スタイルです。農業以外の業界からこの方法で就農した方のことを「新規参入者」とも呼びます。
 栽培・管理の年間計画から一日の過ごし方までを、自分の裁量で決めることができる魅力があります。アイデア豊富な人であれば、ユニークな商品を世に送り出して農業界に新しい風を吹かすことも夢ではありません。自分の確固たる方針や実現したい企画がある人には、向いている働き方だといえます。
 一方で、農地を見つけるところか始まり、作物の選定・栽培、販路の開拓、出荷までの道筋を切り開く必要があります。また、農業機械や設備をそろえるために、ある程度の資金が必要です。こうした初期投資が必要なことから、20~30代の若い世代がいきなり独立就農に踏み出すには多少のハードルがあると言えます。
 農業技術や経営について、農業大学校等の教育機関に通ったり、行政やJAが実施する研修に参加して習得する方法があります。最近では、農地の斡旋や農業設備への補助金といった新規参入者への支援が充実した地域が増えてきています。このような支援を上手に活用することも検討してみましょう。

 

雇用されて農業で働く

 企業として農業生産を行っている「農業法人」などで、従業員として働き、給与をもらう就農スタイルです。「雇用就農」とも呼ばれます。
 法人の規模はさまざまで、家族だけで設立したものから、数百人の従業員を抱える法人まであります。農作業だけではなく加工や商品化の部門を持つ法人もあり、多様な人材が必要とされています。
 就農初期の多額の準備費用は必要なく、一般企業に勤めるサラリーマンと同じように、毎月決まった収入があるのが魅力です。働きながら農業の技術を身につけることができるので、培ったノウハウを生かし、将来独立するケースも珍しくありません。
 また、雇用就農は農業の未経験者が8割以上を占めていることから、一から農業を始める人たちにとって主流の就農スタイルといえます。

 

親や親戚の農業を継ぐ

 親または家族・親族が行なっている農業経営体で農業をはじめる就農スタイルです。最近は、祖父母の行っている農業を継ぐ形で就農されたという話をよく耳にします。
 農業技術や経営について親や親族の指導の下で実践的に学び、将来的には事業を継承して、経営者としての役割を担うことになります。イチから農業に飛び込む新規参入者と異なり、農地、農業機械や設備、代々培ってきた顧客や周囲の信用をそのまま引き継げることが大きなメリットといえます。
 経営を継承したときから「責任」や「周囲の期待」という重い荷物を背負うことになりますが、就農前に培った経験や知識を活かして、新しい事業に取り組んで活躍されている方も多数います。

国産生産額の約6割が耕種農業で、約4割が畜産です。農業は土を耕して作物を育てる耕種農業と家畜を育てる畜産の大きく2つ分けられます。耕種農業には、コメ、野菜、果樹など含まれ、畜産には、牛、豚、鶏などに分かれています。どの作物を選ぶかによって農業経営の方法がや仕事の内容も変わります。

 

コメ

 日本人の主食であるコメを栽培することが稲作となります。一般的には、春先から秋頃までの農作業期間で、苗づくりや水田の管理など、季節や天候に合わせた細やかなケアが重要です。
 稲作のみで収益を上げたい場合、10ヘクタール以上の面積が必要だと言われており、近年では収益を拡大させるため100ヘクタール(東京ドーム21個分)以上で稲作を営む経営者もいます。規模拡大、低コスト化、省力化のため、苗を育てて田植えを行うほかに、水田に直接種子を蒔く「直播」で生産する方法もとっている経営者もいます。
 新規就農者がこのような大きな農地を確保することは難しく、収益をあげるためには野菜作などを含めた複合経営に取り組むことが必要となります。

 

露地野菜

 露地野菜とはハウスなどは使わず露天の畑などで栽培した野菜のことで、四季を感じながら旬の野菜を収穫できるのは、露地野菜を生産している人にしか得られない喜びです。
 露地栽培の経営的な特長は同一面積ならハウス栽培よりコストが安く、大規模化が比較的容易となり、連作障害が出る作物でも場所が変えられることです。一方、作物本来の時期しか栽培できないことや、天候・害虫などのリスクがハウス栽培より大きいことなど、状況に合わせた臨機応変な対応が必要となります。
 新規就農を考える際に、初期投資などの少なさからまずは露地野菜から始める人も多いです。

 

施設野菜

 施設野菜とは、保温や雨よけのためにハウスなどで栽培した野菜のことで、温度・湿度等の生育状況をコントロールすることができるため、収集したデータを活かすIT化が進んでいたり、高付加価値の野菜を栽培する技術も確立されつつあります。近年では異業種からの参入も多く、今後ますます発展が期待される分野です。
 施設栽培の場合は通年で安定した生産が可能なことから、栽培・加工・販売までを一貫して行う6次産業化の取り組みが進んでいます。加工品の企画や販売など、生産だけにとどまらず様々な仕事を経験するチャンスがあります。一方、ある程度の初期投資が必要なことや、栽培コストが高く、大規模化には適さず、作物によって連作障害対策が必要となるなど作業性には工夫が必要となります。

 

花き

 花きとは、観賞の用に供される植物を指し、具体的には、切り花、鉢もの、花木類、球根類、花壇用、苗もの、芝類になります。食生活の範囲の中で選択される野菜・果物と異なり、花きは冠婚葬祭、贈答用、装飾等、様々な使われ方をしています。
 花き栽培は品目にもよりますが、一般的に20~30aの小面積で生計をたてることができる反面、作業時間が長くなっています。また施設導入に係る資金の準備や価格を左右する高品質の技術習得が重要となります。

 

酪農・畜産

 畜産業とは、牛や豚、鶏などの家畜を飼育し、乳製品や肉、卵、皮革などに加工して生活に役立てる産業です。地方では野菜などの生産と畜産業を同時に行う複合経営も少なくありません。
 育てる家畜や規模によって違いはあるものの、畜産業のおける新規就農では、初期投資の費用が野菜作や果樹作に比べても高いため、ゼロから起業するケースは珍しい状況です。畜産業に従事したい場合は、まずは雇用就農で技術習得をし、独立に向けての準備をする選択肢もあります。また、近年では後継者のいない農家が第三者継承による経営譲渡を行う場合もあります。

 

果樹

 果樹生産は、日々変わる自然環境の中でも安定して果物を供給できるよう、年間を通じて絶え間なく作業が続きます。現在、日本で生産されている100種以上の果物の大部分は、年に一度の収穫に向けて果樹一本一本の性質を見極め、水や肥料を与え、病気や害虫から守るという基本的な手入れを一年間かけて行います。
 産地毎のブランド化や、収穫した果物を加工品として販売する、いわゆる「6次産業化」に積極的に取り組んでいる生産者が多いのも、果樹生産の特徴です。
 新規参入する場合、苗木を植えてから収穫するまでに数年かかる場合もあり、果樹のみで生計を立てる場合は2ヘクタール以上の農地が必要だといわれています。果樹に取り組む場合は、小規模での栽培と経験を積み、徐々に規模を拡大していくのが経営確立の近道となります。