ストレッチポールの効果と使い方

ストレッチポールとは
 ストレッチポールはアメリカで用いられていた円柱形のツールにヒントを得て日本のアスレティックトレーナーが開発したエクササイズのツールです。

ストレッチポールのスタンダードモデルは円柱形をしたやや硬めのクッションと言い表せるもので、スポーツ選手がトレーニングに用いていることや、タレントやモデルがセルフケアとして活用していることがメディアでも取り上げられているので目にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。

 ストレッチポールはトレーニングやエクササイズ以外に、医療の現場でもリハビリテーションを行う上でのツールとして用いられることもあります。ストレッチポールにはハーフカットという半円の棒状をしたモデルがあります。

ハーフカットの縦の長さはスタンダードモデルの半分の長さで、2つセットになっているので並べてスタンダードモデルと同じように使うことができます。円柱状のスタンダードなストレッチポールと比べると底が水平であり、高さも低いので床やベッドに置いた際に安定しやすく、リハビリテーションの対象となる高齢者や疾患や怪我のためにバランスがとりにくい方や自由に身体を動かしにくい方にも使いやすいという特徴があります。持ち運びしやすいサイズなので訪問リハビリテーションの場などでも活用している理学療法士作業療法士もいます。

 棒状のストレッチポールの上に仰向けに背中をゆだねて乗ることが基本姿勢となりますが、ストレッチポールの高さとローラーの形状を利用していろいろな筋肉のストレッチやバランス練習など、アイデア次第でバリエーションに富んだ使い方ができるところが魅力でもあります。スポーツ選手のトレーニング、一般の方のエクササイズ、中高生のトレーニング、疾患や怪我でリハビリテーションが必要な方、高齢者の介護予防としてなど、幅広い年齢層や対象に活用されています。

ストレッチポールの効果
 ストレッチポールはコアコンディショニングの理念に基づいて開発されたもので、「日常生活やスポーツその他すべての動作の土台となる「姿勢」「動き」を獲得するため」のツールとして用いられます。

 ストレッチポールでのエクササイズの効果の検証は多く行われており、脊柱・骨盤のアライメントを整えることや、脊柱起立筋の緊張をやわらげリラクゼーション効果が得られること、関節可動域の拡大が期待できること、胸郭の可動性が改善することで深い呼吸が期待できるなどが報告されています。

 健康な人でも身体の使い方のくせなどから身体の左右差はみられます。病気やけがなどをしても身体のアンバランスさが生まれます。ストレッチポールは身体の軸を意識することができ、マッサージなどの施術を受けなくても、身体の左右差や緊張の高い部分を感じながら、自分でリラクゼーションを図ることができるセルフコンディショニングに適したツールです。

 ストレッチポールを使ったエクササイズ後に「肩甲骨が床にべったりついた感じがする」(全体の80%)、「肩甲骨部分の左右差がなくなった感じがする」(全体の53.3%)と対象者が訴えたという研究報告もあり、ストレッチポールでのエクササイズでほとんどの人が背面の変化を感じていることがわかります。

 背中のリラクゼーションはなかなか自分では行いにくい部分でもありますが、ストレッチポールの上に仰向けになり、手足を動かすという比較的容易なエクササイズで、普段のセルフストレッチでは得られない身体の変化を感じることができ、その手軽さと効果の実感を得られるところが多方面で重宝されている理由だと推察します。

 

ストレッチポールの使い方
 ストレッチポールの使い方は株式会社LPNのホームページで動画付きで紹介されています。一般財団法人日本コアコンディショニング協会による基本的なストレッチポール®の基本的なエクササイズとして「ベーシックセブン」があります。

 ベーシックセブンは、ストレッチポールの上で仰向けになり、リラックスを図る姿勢を基本姿勢として、手や足を動かすエクササイズを行います。ストレッチポールでのエクササイズの効果の検証はこの「ベーシックセブン」で検証しているものが多いですが、ストレッチポールの上に仰向けに寝る基本姿勢を10分間とるだけでもリラクゼーション効果が得られるという報告もあります。

 

ベーシックセブンのマニュアル
基本姿勢

基本姿勢」では、ストレッチポール上で十分にリラックスすることを目的とします。

1:ストレッチポールに背骨と頭をのせ、仰臥位になります。
2:両膝を曲げ、足を肩幅程度に開きます。
3:手は体幹から適度に離し、両肘が床についた状態とします。
4:もっとも脱力できるポジションを探します。

予備運動(胸開き運動)

 「胸開き運動」では、上肢を軽く動かしながら呼吸を繰り返すことによって、肩の前面の大胸筋などのリラクゼーションを図ります。

1:両肩を 60度から90度ほど外転します。
2:腕の重さが牽引力となり、大胸筋を軽くストレッチします。
3:肩甲骨を含む上肢全体への牽引力とともに呼吸による胸郭の挙上により小胸筋の緊張を低下させます。

 

予備運動(股関節運動)

 「股関節運動」では、股関節を開排することにより、内転筋の緊張軽減を図ります。

1:基本姿勢の状態から、両膝を外側に開き、股関節を開排します。
2:股関節を脱力し、股関節内転筋群を伸張します。

 

予備運動(対角運動)

「対角ストレッチ」では、胸椎の伸展と回旋、肋間の開大、腹筋群や腸腰筋の伸張などを目的とします。

1:基本姿勢から、対角の上下肢を伸展位とします。
2:対角にある上下肢を同時に脱力します。
3:胸椎の伸展・回旋、股関節の伸展を促します。
4:外腹斜筋、内腹斜筋、肋間筋、腸腰筋などを伸張します。

 

ベーシック1(床磨き運動)

「床磨き運動」では、肩関節、肩鎖関節、胸鎖関節などへのモビライゼーションにより、肩周囲の筋緊張を軽減することを目的とします。

1:基本姿勢となります。
2:上肢を脱力しつつ、両手で床を磨くように円を描きます。
3:手の小さな円運動が上腕骨から鎖骨へと伝わり、肩鎖関節や胸鎖関節を振動させ、その可動性を改善します。

 

ベーシック2(肩甲骨の運動)

「肩甲骨の運動」では、肩甲骨の内転・外転を繰り返すことにより、肩甲骨周囲の筋のリラクゼーションを図ります。

1:基本姿勢から「前習え」をするように腕を挙上します。
2:両腕が天井に引かれるように両上肢を天井に向けて突き出します。
3:腕の動きに伴って肩甲骨の外転と内転を繰り返し、肩甲骨周囲の筋のリラクゼーションを促します。

 

ベーシック3(腕の外転運動)

「肩の外転運動」では、胸郭の拡張、肩甲骨周囲筋のリラクゼーション、肩甲上腕リズムの改善を図ります。

1:基本姿勢から両肩を適度に外転させます。肘は床から離さないようにします。
2:この状態から、前腕が床面を滑るように両肩の外転と内転を繰り返します。
2:この動きにより、胸郭の拡張を促し、大胸筋などのリラクゼーションを図ります。

 

ベーシック4(ワイパー運動)

「ワイパー運動」では、股関節の内外旋を繰り返すことにより、大腿骨頭の前後方向への可動範囲を拡大します。

1:基本姿勢から両下肢を伸展します。
2:踵を支点に、両股関節の内旋・外旋を繰り返します。
3:大腿骨頭の前後の移動範囲を拡大しつつ腸腰筋のリラクゼーションを図ります。

 

ベーシック5(膝ゆるめ運動)

 「膝ゆるめ運動」では、股関節外旋位で、膝をひきつけることにより、大腿骨頭の上下方向の可動範囲を拡大します。

1:基本姿勢から下肢を伸展し、膝を軽度屈曲位とします。
2:踵を滑らさないようにしながら、両膝を外側に引き上げた後、脱力します。
3:この小さな関節運動により大腿骨頭の上下の可動性を拡大します。


ベーシック6(小さなゆらぎ運動)

「小さなゆらぎ運動」では、ストレッチポールが脊椎、脊柱起立筋、肋骨などを押し上げることによって胸郭全体にモビライゼーションを図ります。

1:基本姿勢から体幹を左右に移動させストレッチポールを背中の下で転がします。
2:脊柱起立筋群へのマッサージ効果、胸郭胸椎のモビライゼーションを行います。

 

ベーシック7(呼吸運動)

 「呼吸運動」では、腹式呼吸によってインナーユニットの活動を刺激しつつ、胸郭の挙上と姿勢の改善を図ります。

1:基本姿勢から腹式呼吸により深い呼吸を繰り返します。
2:呼吸筋の活性化を促しつつ、全身の深いリラクゼーションを促す。

 

降り方

エクササイズ後には、急に起き上がるのではなく、骨盤あたりからゆっくりと側臥位になるように降ります。頭から降りたり、頭を挙上したりしないことが大切です。

1:基本姿勢から、降りる方向に向かって体を傾けます。
2:頭部をストレッチポール上に残しつつ、骨盤から床に降ります。
2:すぐに起き上がらず、仰向けのまま背中全体でリアライメントを感じます。
 日本コアコンディショニング協会のホームページでは「ベーシックセブン」のほかにも、「高齢者向け・介護予防用エクササイズパッケージ」10)や目的別、各疾患別のエクササイズを紹介されており、マニュアルがPDFファイルでダウンロードできるようになっています。

 

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