伝わらないのは相手のせいではなく、自分が原因
人に何かを説明してもうまく伝わらない場合、それを人のせいにする人がいる。そしてそういう人に限って、「向こうの頭が悪いからだ」などと相手を見下してしまう。
でもそういうときに本当に頭が悪いのは、相手ではなく、話している本人である可能性を疑ったほうがいい。
「人に何かしらの考えを伝えること」は、基本的にはとても難しいことだ。
テレパシーでも使わない限り、自分の頭にある複雑な考えやイメージを、相手にそのままの形で伝達することはできない。
だから、相手との共通のツールである「言語」を駆使し、自分の頭の中の概念をできるだけ詳しく伝えようとする。これは、会話であっても文字であっても同じだ。ということは、まずは「共通の言葉」を選ぶことが必須となる。
しかしここがわかっていない人は、相手の理解レベルなど考慮せず、自分のいる界隈でしか通用しない言葉を平気で使ってしまう。「日本語を話しているので相手にもわかるはず」ということではないのだ。
「専門用語の意味がわからなければ、その都度相手に聞けばいいじゃないか」と思う人もいるかもしれない。
しかし、よっぽど関係性ができている相手でもない限り、話をさえぎって言葉の意味を確認するのはとても精神力を必要とする。
そういうことに思いがいたらず、自分だけが理解できる言葉をまくしたてるような人は、コミュニケーション力が低いと言われても仕方がないのだ。
悪いのは、言葉の意味がわからない相手ではなく、よく考えずにそんな言葉を使う本人のほうだ。
そもそも相手はどこまで知っているか?
また、相手の「理解の前提」を確認しない人もいる。あるトピックについて話をするとき、それがどこまで伝わるかは、相手がその分野についてどこまで知っているかに左右される。
しかしそれを確認することなく、相手も当然知っているものと思い込み、前提を飛ばして話をしてしまう。
普通、自分と他者の間に、なんらかの知識の差はあって当然だ。もちろん、相手に比べ、自分のほうが知らないこともたくさんある。
だから大切なのは、まずは、話す内容についての相手の知識レベルを確認すること。そのうえで、どういうレベルで、どのような説明をすれば話が伝わるかを事前に組み立てることが大切だ。
そして、話をしている最中は、常に相手の理解度を確認する。どこまで理解できているかを直接聞いてもいいし、ちゃんと注意すれば、相手の目線やうなずきなどでだいたいの理解度がわかるはず。
しかしこのような基本的な確認を怠り、自分のペースだけで話をしてしまう人がいる。そして、「せっかく説明したのに話を聞いてなかったのか」と、相手を非難するのだ。
コミュニケーション力と知識の量は別物
話をうまく伝えられない人は、往々にして「知識量」で人の力を測ろうとするところがある。自分はものごとを知っているから優秀だが、知識がない人は自分よりも劣っているので話が通じないと。
しかし決して、知識の量で頭の良し悪しが測られるわけではない。というか逆に、相手が理解できていないままなのに、それでも話を続けるのは頭のいい人がすることではない。
知識量にギャップがあるときは、どれくらいの差があるかを確認しつつ、いちばん効果的な話の組み立てを考える—それができる人こそが、本当に頭のいい人だと言えるはずだ。
自分の力や知識だけに頼ることなく、仲間の力をうまく借りられるのはこういう人だ。コミュニケーションの本質をきちんと理解しているといえる。コミュニケーションとは、一方的に、知ってる人から知らない人へと知識を伝達することではない。
話す人と聞く人が、お互いに協力し、最も効果の高い意思疎通を実現しようとする行為だ。
知識偏重で、本当の意味での良質なコミュニケーションができない人は、人との協力関係を築くことが難しい。相手に合わせた話をすることができないから、自分の知識も、アイデアも、仲間にうまく伝わらないのだ。
そしてそれは、相手のことをきちんと考えていないという姿勢に発している。相手の立場をもう少し考えられる人であれば、より良い相互理解ができるよう、もっと相手に合わせた話ができるはずだ。
「話が伝わらない」と思ったとき、相手のせいにするのではなく、まずは自分のコミュニケーションのあり方を反省してみる。そのような姿勢が大切なはずだ。
この記事は、アースメディア代表 松本 淳 著 『リクルートに会社を売った男が教える仕事で伸びる50のルール』(フォレスト出版)からの一部抜粋です。