人に相談をする目的は、「回答を得ること」だけではない

悩みというものは、自分で抱えているだけではなかなか解決しないものだ。

1人で悶々としていると、グルグルと同じところを回るだけになってしまう。かといって、人に相談したからといって誰かが適切な回答をくれるとは限らないと思い、相談することをためらってしまう。

それでまた、1人で延々と同じ悩みを頭の中で繰り返す
— こういうループは、 多くの人が経験したことがあるのではないだろうか?


しかし、である。悩みや課題を自分だけで解決しようとせずに「人に相談する」ことの目的は、相手から答えを教えてもらうことばかりではないはずだ。

むしろ人に相談するということは、答えを得られるというメリットより、「自分自身の思考を整理する」こと自体に意味がある場合も多い。何かを教えてもらおうと思って人に相談し、その内容を説明しているうちに、「相手から答えを聞く前に考えがクリアになってしまった」ということはよくあるはずだ。

これは、人に相談するときに、自分のモヤモヤとした考えを「言語化」するというイベントが強制的に発生しているからだ。

そもそも、解決できずに頭の中で凝り固まっている悩みというものは、自分の中でもまだきちんと整理できておらず、言語化できていない場合が多い。

だから原因と結果がごちゃまぜになっていたり、自分に動かせるものと動かせないものが切り分けられていなかったりして、解決の糸口さえ見出せない状況になってしまっている。

しかし、人に相談するというプロセスを経ることにより、そのこんがらがった「課題の塊」を、1つずつ解きほぐしていくことになる。そのために必要なのが、自分の頭にある考えを「言語」に変換することだ。言語化しなければ、他人には自分の頭の中身を説明することができない。

そしてその結果、言語化という過程が、「人に伝える」という本来の目的を達成する前に、 「まずは自分自身にわかりやすく状況を説明する」という役割を担うことになるのだ。

だから、人に説明しているうちに、悩みの構造が理解できてしまい、自分自身で答えを見つけるに至るということが起きる。

 

悩みは、「誰に相談するか」 がとても重要
悩みを人に相談するときは、「適切な人を選ぶ」ことがとても大切だ。

いちばんダメなのが、「よく内容も聞かずに、ただやみくもに答えを返してくる」ような人。こういう人は世の中に一定数存在する。

「一を聞いて十を知る」とは自分のことだという自負があって、 相手に「正しい答え」を教えてあげよう、ということばかりを考える。

もし、その人の能力が本当に高ければ、その人からの「答え」の中に正しい解が含まれていることもあるだろう。しかし、それはあくまで確率論であり、運悪く、それがまったく的外れで自分のためにならない回答という可能性もある。

「反射的に答えた回答」が正しいかどうかなんて、誰にもわからないのだ。


また何より、相手に答えをまかせ切りというスタイルの相談に慣れてしまうと、自分自身の考える力が育たなくなってしまう。いつも答えだけを求める姿勢だと、「自分の課題をきちんと言語化する」過程もおろそかになり、自分自身の把握や理解も、深みのない、 表面的なものに終わってしまう。

だから、相談する相手は、まずは真摯に自分の話を聞いてくれる人のほうがいい。「傾聴」 してくれる姿勢がとても重要なのだ。すぐに表面的な答えを出そうとするのではなく、人の話をきちんと聞いて、一緒に悩んでくれるような人。そんな人がベストだ。

そういう人 は、答えの一方的な押しつけではなく、相談する側とされる側で「会話」をしながら一緒に課題を解決してくれる。そうやって得られた答えは本質に近いものが多いし、また、自 分の言語化力、そして、「考えられる力」を深めることができる。

 

自分が相談されたとき
このように見れば、逆に今度は自分が人から相談を受けたとき、相手に対してどのような姿勢を取ればよいかもよくわかる。

相手の話を少し聞いただけで自分が知る範囲の「インスタント」な答えを返すようでは、良い相談相手になれないかもしれない。自分の経験が増えれば増えるほど、知らず知らずのうちにそんな行動を取ってしまいがちなので注意が必要だ。


本当に優秀な人ほど、相手の悩みに対する自分の理解度や、自分の持っている知識を過信しない。

せっかく相手に信頼されて相談を受けたのなら、あくまで謙虚に、「相手の課題に一緒になって向き合える」、そういう姿勢が理想だ。

 

この記事は、アースメディア代表 松本 淳 著 『リクルートに会社を売った男が教える仕事で伸びる50のルール』(フォレスト出版)からの一部抜粋です。